まちの銭湯 おばあさんたちの居場所

 

◆4月のある日 (その1)銭湯デビュー

その日は午後5時までに合計16000歩くらい歩いた。帰りは歩き疲れて「バスに乗っていいよ」・・・という誘惑の声も聞こえてきた。家へ帰ったらいっぱい食べよう! それだけが楽しみで最後は惰性で歩いた感じ・・・。

家へ帰って、買ってきたアジフライと、野菜サラダと豚しゃぶをさささっと作り、賞味期限が1週間過ぎたトマト味のスープを出したら、すごく美味しかった。おなかをすかせて食べる夕食の、な~んと美味しいことでしょう!

疲れて動きたくないけど、夫はすごく乗り気で近場の昭和レトロな「町の銭湯」へ行く気満々。

わが家、2人共65歳以上になったのでさいたま市の銭湯の入浴券を申請してもらってきた。その券プラス毎回100円払うとお風呂に入ることができる。

私はいい機会だから市内の銭湯をあちこち巡りたいのだけど、夫は一番近場の銭湯=過去にひつじ母(はは)と幼い孫を連れて私が行っていた銭湯に行きたがった。1度も行ったことがないから。

私が「あの銭湯、まさに昭和だよ」「レトロだよ」「ロッカーのカギ、あってもないような危うさだよ」「なにもかもすごく古いよ」、「シャワーも固定だから体をシャワーに近づけないとお湯がかからないよ」「石鹸もシャンプーもない」「手元のお湯や水も蛇口を押さえてないとお水出ないよ。自動ではないよ」「ほんとに何もかも古い」「トイレも昔の和式だよ」「貴重品を預ける場所なんかないよ」「お財布やスマホを持って行くと危ないかも」と言っても、夫はな~んか平気そう。

建物、外から見ても古そうなんだから全然期待してないよ・・みたいに思っているのかな。

「でも、風呂桶はあるんでしょ?」って聞いただけ。(^_-)

「ありますよ。小さいケロリンの桶」

「じゃあ大丈夫だ」

「銭湯絵師:ナカジマさんの富士山や松原の絵はすばらしいけどね」

「あと、番台の女将さんの人柄がすばらしくイイ。

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私は歩き疲れてくたくた、おなかもいっぱいで眠いくらいなのだけど、朝、「今日は近場の銭湯に一緒に行ってみようか」と夫が話していて、すごく楽しみにしている様子が夕食後も感じとれたので、しかたなく行くことにした。

行きたければ一人で行けばいいのだけど、1度だけ一緒に行けば次回からは一人で行かれるでしょ。

「そういうレトロな銭湯は学生時代以来だな~」と、夫は楽しみにしている。

午後6時過ぎ、2人で銭湯に向かって行った。番台の女将さんはびっくりしたけどすごく喜んでくれた。行って良かったね。(^^)/

入浴中にお風呂の富士山絵を見てみたら、覚えている絵より多少黒ずんで見えた。その絵には平成30年7月27日と書いてあった。私は4年前、女将さんから「今日、ナカジマさんが絵を描き終えるから午後〇時からなら見に来ていいよ」「写真写しに来ていいよ」と教えてもらっていたのだ。書き終えたその日に撮影させてもらったことがある。なんてなつかしいんでしょう!

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さて7時過ぎ、私は女将さんに「夫はもう帰りましたか?」と聞いた。

「今、帰りましたよ」

「そうですか。最初から現地解散と決めていたのでいいんですけど」

帰宅したら、夫は「あの建物、立派な梁(はり)だったなぁ」と感心していた。「もう遠くの銭湯へ行く必要ないな」と気に入った様子だった。

次回から夫は一人で行かれそうです。良かった~。(^^)

 

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◆またまた4月の銭湯(その2)

わたくし、この日はきりんの庭で何時間も土いじりして頑張り過ぎたので、自分自身が汗臭い。さ、お風呂わかそう! 家に帰ってお風呂を洗っていたら、夫が帰ってきた。

「ただいま」

「どこへ行ってたの?」 ・・・(わたし)

「〇〇湯」       ・・・(つまり、近場の銭湯)

「えー?」       ・・・急にお風呂を洗う力が失せたわたし

「一人で銭湯に行かれたの?」

「うん」 「散歩のあと、汗かいたから銭湯に入ってきた」

「へー まちの銭湯、そんなに気に入ったんだ」

「僕なんか、もうセッタで行ったよ」

「せった ってなに?」

「これ」

「草履のことね」

「全部着替えて行ったの。持ち物なくていいでしょ。券と100円持って行っただけ」

「はあ・・・そんなに気に入ったんだ・・・」

「4時半に行ったけど、おばちゃん、いたよ」

「午後5時前でもおばちゃんいたの、知らなかった」

「近くのお店で石鹸入れを買って来た」

「アハハ」

「入浴セット 着々と準備中。(^_-)」

 

じゃあ、私もそうしようかな。

私は着替えいっぱい膨らませた袋を持って銭湯に行った。

歩きながら、「わざわざ行くより家のお風呂の方がいいのにな~」とは思った。

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「さっき、うちの主人が来たでしょ。ここすごく気に入ったみたいです」

番台の優しい女将さんが笑っていた。

女将さんはお風呂利用者のおばあさんたちとプロ野球の佐々木朗希君のことを話題にしてギャーギャー騒いでいた。

 

「完全試合した子、カッコいいよねー!」

「若いのに顔も締まってるし」

「いい顔してるよねー」

「ねー、あのこ、名前なんてったっけ?」

「名前、忘れちゃったね~、ギャハハハ」

「ロッテのピッチャーよね~」

「名前が出てこない。困ったね~ギャハハハ」

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こちら外野席は可笑しくてたまらない。

このお風呂の脱衣場は、おばあさんたちのたまり場、居場所なんだな~と思った。いつまでも笑い転げている。しあわせそう。(^^)/

 

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私はのぼせるから、心臓から上はお湯に浸からない。長湯もしない。もっともっとぬるいお風呂だといいのだけど。

 

私がお風呂から上がったら、番台の女将さんは今度は男性の脱衣場所へ行ってぺちゃくちゃおしゃべりしていた。おじいちゃんの居場所も銭湯なんだなぁ・・・と思った。

銭湯の近くに住んでいる、頭の確かなおじいさんとおばあさんは銭湯に通っておしゃべりしているんだ・・・と発見した。

ボケると銭湯に来られないからね。

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たまにはレトロな銭湯もいいけど、私はやっぱり家のお風呂が一番いいな~と思っている。

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毎週1回、わざわざ行くのは面倒だな~と(半分は)思いながらも、まちの銭湯に通うようになって、そういう気持ちが少しずつ変わろうとしています。

お次へどうぞ。

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◆またまた4月末の銭湯 (その3)

あんまり気が進まないのだけど、今日も近くの銭湯に行く。4月分のチケットを使いきってしまいたいから。熱いお風呂が好きでないのだけど、しかたなく入りに行く。本音は、自分ちのぬるーいお風呂にゆっくりつかりたい・・・。

お風呂屋さんはその日、常連さんが1人か2人、3人いるだけ。1人あがれば1人入って来るというのんびりさ。

私は5分もお風呂の中に入っていられない。熱くて頭へんになりそう。湯舟に浸かっていなくても、あの蒸し蒸しする蒸気の中では気持ちが悪くなる。のぼせそう。洗い場にも長くいられない。倒れないうちに脱衣場に戻る。

で・・・笑っちゃうのは、「あら、おねえさん、さっき入ったばかりなのにもうあがってきたの?」と知らない太ったおばあさんが私に声を掛けてきた。

「からすの行水じゃないかぁ?」って。

「あはは、お姉さんではありませんが・・・熱いの苦手なんです」

「熱くないよ」

「そうですか。私には熱いです。ぬるいお風呂だといいんですけど」

「私なんか、家ではいつも43℃だけどね」

「そうですか、うちは真冬でも40℃かな。今は38℃とか39℃ですね。その方がゆっくり入っていられます」

「そっちの方が体にはいいんだろうけど、私は熱い風呂が好きだね」

「そうですか」

「熱いお風呂がいいよね~」・・・と向こうの人にも声をかけている。

 

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年とった人は熱いのが好きなのかな。ま、好き好きだからね。この熱さが好きな人がこういう町の銭湯に入りに来るのかもしれない。

私は広い銭湯の洗い場の、あのむんむんした蒸気の中でも、すぐのぼせる。冷気にあたりたい。窓を開けたい・・・となる。だから脱衣場に避難・・・。

「烏(からす)の行水」かぁ・・・なんだか私にとって子どもたちが小学生の頃に使っていた懐かしい言葉だなって思った。ほとんど死語だったけど、30年ぶり(くらい)に聞いたことば。

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やっぱり自分ちのお風呂がいいな。家のお風呂はぬるいから少々長くなってもめまいなんか起きないもの。長風呂してると夫が心配して様子を見に来るぐらいだから、家ではカラスの行水ではないの。

銭湯は常連のおばあさんたちが超明るいし、優しいし、番台の女将さんもすごく優しい。

お風呂に入りに行くというより、たま~に脱衣場に話しに行くと思って出かけるのが(私には)イイかも。

 

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◆5月5日 しょうぶ湯

 「菖蒲湯(しょうぶゆ)」

 

「菖蒲(しょうぶ)湯」って見たことも入ったこともないので行ってみました。菖蒲の束ごと、大きな洗濯用ネットに入って湯船に浮かんでいました。

↑ これはよその銭湯の画像で、今日行った銭湯はこの菖蒲の長さのまま白く長い洗濯ネットみたいなものに入れていました。夫に聞くと、男性の菖蒲の束の方が太かったようです。

毎度のこと、お湯の温度が熱かったので、菖蒲の香りとかまろやかさがあるとかないとかは・・・全然わかりませんでした。私の次に湯舟に入ったおばあさんが、「こんな熱いお湯に入ったの?」と驚いていました。

今日は41℃くらいでやっぱり熱かったです。私は菖蒲の白い束で隠しながら、お水をジャーっと入れたままにしてさ~っと入り、上がる前に蛇口を止めたのです。

今日は外も26℃ぐらいあって暑かったので、熱いお風呂は No,thank you. 自分で湯舟に入る長さを調節・・・お風呂での過ごし方、この頃少し分かってきました。

今日は、私のお風呂滞在時間が短いのを笑う人も、とがめる人もいませんでした。(^_-)

菖蒲湯の日はお客さんが多いのか、コーヒー牛乳も牛乳も売れ切れだったので、トマトジュースを買いました。美味しかった~。

なんだか入浴後の飲み物と、女将さんやお客さんとの小さな会話を聞くのが楽しくて、ここに来ている感じです。

私が用意している間、これから帰ろうとしているよそのおばあさんが「ないない、メガネがない」と荷物を取り出し、お店を広げて騒いでいました。番台の女将さんが「なになに?」「メガネ、自分でかけてるじゃないの~」と笑いました。

「えっ?」「あらまー」

みんなでげらげら笑いました。

メガネをおでこにかけて探し回っているのではなく、メガネを鼻に正しくかけているのに探し回る人って本当にいるんですね。

そのうちそういうことが他人事ではなくなる日が私にも来るのかもしれない・・・と思いながらも、釣られて笑ってしまいました。

なんだか「町の銭湯」っておもしろいところだなぁ~って毎回思います。