『不幸な認知症、幸せな認知症』という本より

上田 諭(うえだ さとし著) 日本以下大学高齢者専門医

 

あとがき というか、「おわりに」の一部分をそのまま引用

します。(P173 途中から書きます)

 

「私がもっとも伝えたいと思ったのは、認知症は周囲の方の

接し方や対応で不幸にも幸せにもなれるということでした。

それはご本人だけではありません。ご家族も周りにいる人も

不幸になったり、幸せになったりするのです。

その道しるべを盛り込んだ本書を読み終えた方は、どうする

と不幸なのか、どうすれば幸せになれるのか、その大切な手

がかりをすでにご理解いただけたと思います。

いずれ原因が明らかになり、根治治療ができる日が来るでし

ょう。それまでの間、幸せな認知症が増えていくよう、これ

からも多くの人たちに伝え、語りかけていきたいと思います。」

***********************

 

もう一か所 P94

◆アルツハイマー病の人に妄想が出現したとき、その陰には

必ずといっていいほど、精神的な孤立や不安、生活の不満が

あります。

楽しみや張り合いのない生活を送り、何もすることがない。

したいと思うことはなかなか実現できず、お世話され指示

されてばかりで満足感もない。そこで、お金や大事なもの

のことばかり考えてしまうのです。

(途中省略)

 

同様に、嫉妬妄想も心理的な背景があると考えられます。

たいていは配偶者との間で生じるものですが、相手との

関係性が変わり、心理的にも物理的にも自分は置き去り

にされるのではないか、という孤立感や疎外感が妄想に

隠されています。

何の根拠もなく疑われた配偶者は、ばかばかしいと相手

にもしないことも多いでしょう。実はそれがまた疑いと

いう衣をまとった孤独と不安を増長させていくのです。」

(途中省略)

 

ご家族にぜひお願いしたいのは、妄想を生んでいる心理

状態を理解していただきたいということです。その妄想

の裏には、疎外感や不安感、張り合いのもてない生活が

あることを知ってほしいのです。

口論や叱責のない会話を心がけ、さらに介護サービスを

活用して、ご本人が張り合いのある生活を送れるよう

目指します。薬に頼るのではなく、そんな心のケアを

ぜひとも優先してください。」